2005年11月1日付の読売新聞に「ブロッコリーで胃ガン予防、〜筑波大 新芽にピロリ菌殺傷効果」という見出しが躍りました。アメリカで開催された米国ガン学会における筑波大学グループの研究発表が大きく報じられたもので、「はなまるマーケット」などテレビの健康番組で取り上げられ、ピロリ菌とスーパースプラウトの関係に熱い注目が集まっています。この研究グループの中心人物である筑波大学の谷中昭典博士を訪ね、お話を伺いました。
聞き手/(株)村上農園 常務取締役 田村清貴

田村:
谷中博士は消化器系とくに胃ガン・胃潰瘍(かいよう)など胃の病気がご専門と伺っておりますが、今回世界的に注目された研究は、どのようないきさつで始められたのでしょうか。
谷中博士:
胃潰瘍は一昔前までストレスと関係があるといわれ薬物治療が主体でしたが、薬を止めると再発する非常にやっかいな病気だったわけです。ところが、さきごろノーベル賞を受賞したロビン・ウォーレン博士とバリー・マーシャル教授がピロリ菌を発見し、それが胃炎や胃潰瘍、ひいては胃ガンの主な原因だったということが分かり、ここ20年さまざまな研究が盛んに行われてきたというのが背景にあります。筑波大学でも、基礎医学系の学際領域研究センターの山本雅之教授(基礎医学系)が、「もともと人は身体を傷つける外界のさまざまな酸化ストレスに立ち向かう能力があり、その能力が優れている人はガンを予防できる」という研究をされていました。そして、ブロッコリーのスーパースプラウトに多く含まれているスルフォラファンという成分が、酸化ストレスに立ち向かう能力を高めるメカニズムを解明されました。
もっとも、スルフォラファンについてはジョンズ・ホプキンス医科大学のポール・タラレー博士が以前から抗酸化酵素を誘導するということを発表しておられ、同じ分野ということで、タラレー博士と山本教授は以前から交流があったという経緯があります。…とまあ、ここまではまだ私とは繋がらないのですが、そのタラレー博士と同じ大学のファヘイ博士が、2002年春、試験管レベルで「スルフォラファンがピロリ菌に対して強い殺傷効果を示す」ことを解明したんです。
その後2人の博士が一緒に来日され、山本教授の研究室を訪問して、タラレー博士が「ファヘイ博士が非常に面白い研究をした。ピロリ菌に感染した人でも同じ効果があるんじゃないかと思うが、日本で研究してはどうか」と勧められたのです。というのも、アメリカはピロリ菌の感染者が少なく、感染してもあまり発病しない。胃ガンはアメリカでは非常に稀な病気で、胃ガンの研究自体あまり盛んではないんですね。ピロリ菌感染率が高く、かつ胃ガン患者が多い日本に持ってこられたのはそんな事情があったのだと思います。そこで山本先生が学内でピロリ菌を研究している人間を探したところ私に白羽の矢が立ったわけです。
田村:
なるほど。アメリカでは胃ガンの研究者も患者も少なく、研究環境としては日本がよいだろうというタラレー博士の提案だったわけですね。
では、大変話題となったこの研究発表の内容についてお話いただけますか。
では、大変話題となったこの研究発表の内容についてお話いただけますか。
谷中博士:
ファヘイ博士の研究成果はスルフォラファンがピロリ菌を殺したという試験管レベルのデータですが、それを人間で証明するというのはかなり難しいことなんです。ステップとしては、試験管レベルの次はマウスなど動物を使う生体内での動物実験ですね。それで効果が得られたら、こんどは人間で行う。最初はボランティアの方で行い、最終的に患者さんで行います。
このように、基礎的な研究から得られた知見を実際に臨床に応用していくにはさまざまなステップが必要になります。
このように、基礎的な研究から得られた知見を実際に臨床に応用していくにはさまざまなステップが必要になります。
谷中博士:
さて、人間で試験するといっても、どのくらいの量をどのくらい食べれば効果があるか見当もつきませんから、とりあえず人間のピロリ菌に感染しやすく、組織的に人間の粘膜と非常によく似ているマウスで実験しました。人間の場合、ピロリ菌に感染してもすぐに胃炎が起こるわけではなく、40年ぐらい経って萎縮性胃炎などになり、やがて胃ガンで命を落とすようなことになるのですが、寿命が2年のマウスも人間同様、ちょうど中年にあたる、1年ぐらい経って胃炎のような病気を発症することがわかりました。ただしマウスはピロリ菌に感染しただけでは大した胃炎になりません。激しい胃炎を起こすには、食塩のたくさん入った食事を同時に食べさせるんです。これは私が発見したことではなく、日本人に胃ガンが多いのはピロリ菌感染者が多いことに加えて食塩をたくさんとる食習慣があるためだというのはすでに定説なんですね。
左の図は、ピロリ菌感染マウスに食塩を投与したときの2ヵ月後の典型的な組織の写真です。下方の黒っぽい部分が炎症の激しい部位です。白血球がたくさん浸潤して炎症が起きています。
一方、右の写真は、ピロリ菌感染マウスに食塩とスーパースプラウトをミキサーでジュースにしてそれを飲料水として与えた場合の2ヶ月後の組織です。このように、スーパースプラウトのジュースを毎日与えていたグループのマウスは胃炎がかなり軽減されていることがわかりますね。

一方、右の写真は、ピロリ菌感染マウスに食塩とスーパースプラウトをミキサーでジュースにしてそれを飲料水として与えた場合の2ヶ月後の組織です。このように、スーパースプラウトのジュースを毎日与えていたグループのマウスは胃炎がかなり軽減されていることがわかりますね。
谷中博士:
次は人間の場合の試験を行うわけですが、無作為二重盲検法で行いました。
次の図をご覧ください。
対象は、ピロリ菌に感染しているボランティアの方50名です。この50名を、スーパースプラウトを食べてもらう組とアルファルファを食べてもらう組に、我々にも分からないよう無作為にコンピュータでグループ分けします。特定のものを食べるというだけで心理的な影響がありますので、アルファルファをプラセボ、すなわち薬の実験でいう“偽薬”にしました。アルファルファをプラセボにした理由は、形状が似ており、スルフォラファンが入っておらず、他のビタミン類や栄養素等はほぼ同じであるという点です。マウスに投与したスーパースプラウトジュースの量を人間に換算して、1日あたりスーパースプラウト70gという計算値を出し、これを1日2回に分けて8週間食べていただきます。
そして、スーパースプラウトを食べる前と8週間後、中間点の4週間後。さらに食べるのを止めてどのくらいで元に戻るかを見るために16週間後にそれぞれ検査を行い、ピロリ菌の量と胃炎がどのくらい改善されたかを見ていきました。
試験で使うブロッコリースプラウトですが、市販されているものにはスルフォラファンの含有量が低いものから高いものまで非常に大きなバラつきがあるのです。次の図はファヘイ博士がアメリカで市販されているブロッコリーおよび「発芽3日目のブロッコリースプラウト」の中の抗酸化活性(=スルフォラファン含有量)を調べたものです。成熟ブロッコリーより発芽3日目のスプラウトがスルフォラファンを多く含むこと、発芽3日目のスプラウトでも製品によってスルフォラファンファン含有量が大きく異なることがよくわかります。
中には「発芽3日目のブロッコリースプラウト」でもスルフォラファンを全く含まない製品もあったそうです。
常に含有量が一定であることが必要な科学的な研究において、ブロッコリースプラウトの選択は大変重要です。アメリカの研究チームに相談した結果、スルフォラファン含有量が高く安定している村上農園のブロッコリースーパースプラウトを採用しました。
次の図をご覧ください。
そして、スーパースプラウトを食べる前と8週間後、中間点の4週間後。さらに食べるのを止めてどのくらいで元に戻るかを見るために16週間後にそれぞれ検査を行い、ピロリ菌の量と胃炎がどのくらい改善されたかを見ていきました。
試験で使うブロッコリースプラウトですが、市販されているものにはスルフォラファンの含有量が低いものから高いものまで非常に大きなバラつきがあるのです。次の図はファヘイ博士がアメリカで市販されているブロッコリーおよび「発芽3日目のブロッコリースプラウト」の中の抗酸化活性(=スルフォラファン含有量)を調べたものです。成熟ブロッコリーより発芽3日目のスプラウトがスルフォラファンを多く含むこと、発芽3日目のスプラウトでも製品によってスルフォラファンファン含有量が大きく異なることがよくわかります。
中には「発芽3日目のブロッコリースプラウト」でもスルフォラファンを全く含まない製品もあったそうです。
谷中博士:
全員に、採血、検尿、検便、呼気試験の4つを実施します。
測定項目は以下の通りです。
測定項目は以下の通りです。
谷中博士:
はたしてスーパースプラウトを摂食してどのくらい胃炎が改善されたか…。胃炎の程度を示すペプシノーゲンIIを見たのが下の【図1】です。アルファルファ群の方では0週、4週、8週、16週、いずれもほとんど差はありません。それに対してスーパースプラウトを摂食した群はペプシノーゲンの量が時間を追って下がり、摂食をやめると元のレベルに戻ってしまいました。このことから、スーパースプラウトを食べている限り、胃炎は改善されると言えます。また、一部の方に1年間ずっと食べてもらっているのですが、さらに良くなっているんです。そういう意味では、ガンも予防できるのではないかと思っています。
次にピロリ菌の量を見たものが下の【図2】です。
便中のピロリ菌の量で見てもアルファルファでは変動はなく、スーパースプラウトの方は胃炎の指標よりさらに鋭敏に…元の1/8ぐらいまで下がっています。しかも食べ続ける限りどんどん減っていきます。25人に食べてもらっているわけですが、25人中8人はなんと0(ゼロ)、検出限界に至っています。しかし、スーパースプラウトの摂食を止めてしまうとまたある程度戻ってしまうので、完全に除菌できたわけではないのですが、食べ続ける限りピロリ菌はかなり抑えられます。ファヘイ博士の試験管レベルでの研究結果はピロリ菌に感染した人間のケースにも当てはまると言えると思います。
便中のピロリ菌の量で見てもアルファルファでは変動はなく、スーパースプラウトの方は胃炎の指標よりさらに鋭敏に…元の1/8ぐらいまで下がっています。しかも食べ続ける限りどんどん減っていきます。25人に食べてもらっているわけですが、25人中8人はなんと0(ゼロ)、検出限界に至っています。しかし、スーパースプラウトの摂食を止めてしまうとまたある程度戻ってしまうので、完全に除菌できたわけではないのですが、食べ続ける限りピロリ菌はかなり抑えられます。ファヘイ博士の試験管レベルでの研究結果はピロリ菌に感染した人間のケースにも当てはまると言えると思います。
谷中博士:
今回の結論としては、スルフォラファンの含有食品であるスーパースプラウトを継続的に摂取することで人間の胃炎が改善したということです。また、胃炎が長引くことで胃ガンになると言われていますので、胃ガン予防の可能性が期待されます。田村:
スルフォラファンはどのようなメカニズムで私たちの体を守ってくれるのでしょうか?
谷中博士:
まず、ピロリ菌に感染するとなぜ胃ガンになるかを説明します。
下の図をご覧ください。
ピロリ菌はこのように胃の粘膜の上の方、胃液がじゃぶじゃぶあるところに棲んでいて、組織の中には入ってこないんです。この位置から毒性のある刺激物を組織に与え続けます。この刺激物に対抗しようと白血球が集まり、活性酸素を出して攻撃します。しかしピロリ菌は組織から離れたところに棲んでいるので、この攻撃が届かず、逆に自身の細胞を傷つけてしまう。これが延々と、何十年も続くうちにガン化してしまう。これが胃ガン発生のメカニズムです。
さて、質問の答えですが、スルフォラファンはファヘイ博士が言うように、ピロリ菌に直接作用してピロリ菌の活性を弱める、これが一つ。
そしてもうひとつの働きは、白血球が活性酸素を出すわけですが、抗酸化作用を高めることにより、自身の細胞が傷つくことを防ぐわけです。
胃以外の臓器であれば、後者の「抗酸化作用を高める」だけなんですが、胃に限ってはピロリ菌を直接やっつける作用も期待できるわけで、とくに胃ガンの予防に有効だと考えられます。
下の図をご覧ください。
さて、質問の答えですが、スルフォラファンはファヘイ博士が言うように、ピロリ菌に直接作用してピロリ菌の活性を弱める、これが一つ。
そしてもうひとつの働きは、白血球が活性酸素を出すわけですが、抗酸化作用を高めることにより、自身の細胞が傷つくことを防ぐわけです。
田村:
胃に関して、スルフォラファンは一粒で二度美味しい存在なのですね。
最後に今後の研究の展望や次のテーマについてお聞かせください。
最後に今後の研究の展望や次のテーマについてお聞かせください。
谷中博士:
スーパースプラウトを長期間摂取してもらい、本当にガンの予防になるかどうかを突き止めたいと思います。
もう一つは、今回は“ピロリ菌の殺傷効果”に注目していますが、スルフォラファン本来の働きはやはり“抗酸化作用の増強”です。そこに注目すると胃ガン以外のガンに対しても予防効果があるはずなんですね。消化器領域ですと大腸ガンが今一番注目されているので、「大腸ガンの予防にならないか?」というテーマで動物実験から始めて最終的には臨床試験ができたらいいなと思っています。
大腸ガンの場合、胃ガンと比べるとわりとステップを踏んでガンになることが分かっています。まずポリープができ、これを放って置くとやがてガンになります。内視鏡でポリープを取っても、2年くらいしたら他のところにできてくるんです。ですから、ポリープの再発を抑えられればガンも抑えられると言えます。今回の研究と同じような感覚で大腸ガンも試験ができると思うんです。
もう一つは、今回は“ピロリ菌の殺傷効果”に注目していますが、スルフォラファン本来の働きはやはり“抗酸化作用の増強”です。そこに注目すると胃ガン以外のガンに対しても予防効果があるはずなんですね。消化器領域ですと大腸ガンが今一番注目されているので、「大腸ガンの予防にならないか?」というテーマで動物実験から始めて最終的には臨床試験ができたらいいなと思っています。
大腸ガンの場合、胃ガンと比べるとわりとステップを踏んでガンになることが分かっています。まずポリープができ、これを放って置くとやがてガンになります。内視鏡でポリープを取っても、2年くらいしたら他のところにできてくるんです。ですから、ポリープの再発を抑えられればガンも抑えられると言えます。今回の研究と同じような感覚で大腸ガンも試験ができると思うんです。
田村:
薬物と違って日常の食品でガンを予防できることが検証されれば画期的なことですね。
私たちも世の中のために役立つ食品を提供しているのだという実感を得ることができました。
本日はお忙しいところありがとうございました。
私たちも世の中のために役立つ食品を提供しているのだという実感を得ることができました。
本日はお忙しいところありがとうございました。
2005.12.01 於:筑波大学医学部
2005.12.02
2005.12.02